ティーチャー・トレーニングがいよいよ開始となる。


その初日、イヴァナのクラスを初見学するため、
僕と一哲は2人でイヴァナのスタジオに歩いて向かった。

最初の宿泊先、バナナ・バンガローは、今、LA Bootcamp の宿泊先としても
使っているのだが、スタジオがあるウェスト・ハリウッドで、カジュアルに宿泊できる唯一の場所だと思う。

宿泊先から、スタジオまでは歩いていくことができ、
僕たちも最初は、スタジオまでずっと歩いて行っていた。

簡単に言うと、宿泊先からスタジオがあるメルローズ大通りはすぐ近くなので、メルローズに出て、約30分ほど歩くと、イヴァナのスタジオに到着する。

メルローズ通りは、割とアバンギャルドな感じで、ちょっとワイルドな
ファッションの店がたくさんある。

バーやレストランもたくさんあるし、スタンド・アップコメディをやっている
小さな劇場も途中にある。

とにかく、歩いていて飽きることがない。

食べる場所も結構あるが、チップもあるアメリカの外食は基本、日本より高くつく。

さて、スタジオは、メルローズ通りに垂直に交わるフォルモサという通りを
一歩入った建物の階段を上がった2階にある。

さて、一哲とともにティーチャー・トレーニングのため、ついにイヴァナの

スタジオにやってきた。

スタジオのドアが開くのは、クラスが始まる大体10分くらい前(中では最初の組が稽古をやっている)なので、どんどん集まってきた生徒たちが、
ずっとスタジオ前のテラスでたむろしている状態になる。

いかにも、ハリウッド俳優という感じの美男美女もいれば、
そうでもない人もいるし(笑)人種、年齢、言語も、
ありとあらゆる人たちが混ざって、混沌たる状態が醸し出される。

僕は何度か見学していたので少し慣れていたが、一哲にとっては初めて。
そして彼にとっては、イヴァナに会うのも初めてだった。
おそらく緊張していただろう(笑)

僕も、前回、プライベートレッスンをしてもらって以来、久しぶりに
イヴァナと会うので、緊張していた。

ちなみに、イヴァナは、生徒たちと同じ入口からいつも登場する(笑)

その日も、数十人の生徒たちが待ち受ける中、イヴァナが登場した。
当時は、バリバリのヘビー・スモーカーだったのでタバコを吸っていた。

さて、僕にはクラス開始前に、イヴァナに初対面の一哲を紹介するという仕事があった。
まだ開いていない入り口の近くでみんながイヴァナを取り囲む中、
僕は一歩前に踏み出して、挨拶をした。
(アメリカ人は、日本人のように周りに気を使わないので、一歩踏み込む感覚、というのがわかっていただけるだろうか)

もちろん僕たちが今日からトレーニングを開始することを知っていたので、
イヴァナも「ウェルカム!」という感じだった。

「ティーチャー・トレーニングに来ました!」と挨拶をした後、
一緒にトレーニングを受ける高橋一哲です、と紹介した。

イヴァナが「ようこそ」と言い、一哲も挨拶をした。

イヴァナのところには、世界中から人が集まってくるが、
久しぶりの挨拶は大体、クラス開始前にこんな感じで行われる。

さて、二人が挨拶をしたところまでは良かったのだが、僕はすぐにイヴァナから2人で話したいと呼び出された。

なんと、こう言われた。

「あなたの友達をティーチャー・トレーニングに受け入れられるか
わからない」

「えっ!?」

2人で計画を立て、色々準備してここまでやって来たのに、今更そんなことを言われても!?と僕の顔は一気に青ざめた。

「彼の英語は本当に大事なの?それが確認できないとゴーサインは出せない」

そう言われた。

(うーむ、初日にそんなことを言われて、やっぱりダメと言われたら一哲が
可愛そう過ぎる・・・・)

と僕の中でインナーモノローグ。

「だ、大丈夫だと思います」

とは答えた。

一哲は、宿泊先でのやり取りを見ている限り、普通のコミュニケーションに問題はないように思えた。

ただ込み入った話を理解するのは難しいと感じていたので、
しばらく通訳を付ける予定でいた。

そんな状況の中、いきなりイヴァナから試練が与えられたのだ。

「今日、クラスの様子を見ていて、大丈夫かどうかを判断するわ」

「・・・・・・」

運を天に任せるしかなかった。

この時、僕は詳しいことは一哲に伝えなかった。

(ダメと言われたわけじゃないし・・・)

どこでイヴァナが判断するかはわからなかったが、楽観的に行くことにした。


そしてその日のクラスを見学した。

ティーチャー・トレーニーになると、トレーニング期間中は

毎回、イヴァナの横に座ることが必須となる。

これは、今思うと、最大の特権だったなあ、と思う。
毎日、毎日、一列目のイヴァナの横で指導を見続けられるのだ。


僕と一哲は、イヴァナの横に呼ばれ、イヴァナが指導する中、
必死でノートを取った。

初めて体感するイヴァナのマスタークラス、彼が堪能しているのがわかった。

僕も、休憩時間中に、イヴァナがどんな解説をしたか、出来る所は解説した。


その日のクラスが終わった時、イヴァナが一哲に聞いた。

「今日のクラスはどのくらい理解できたの?」

確か、一哲は、半分くらいはなんとなく、と答えただろうか。

(この辺りの記憶はちょっと怪しい)


が、イヴァナはここで、一哲にゴーを出した。

大体、自分が言わんとしたことは伝わる、という感覚を得たのだと思う。

ヒヤヒヤものだったが、イヴァナが俳優に出す指示により、俳優の演技がどんどん変わっていく様を見るのを、一哲は本当に愉しんでいるようだった。

おそらく、それが良かったのではないだろうか。

初日から、一緒に来た一哲がトレーニングが受けられなくなる、という事態は無事回避された。

2ヶ月間のトレーニングが無事に開始されたのだ!

(チャバック・スタジオ豆知識)

イヴァナのスタジオは、非常に合理的に運営されている。

イヴァナはいつもスタジオにいるわけではないため、
スタジオの開け締めは、クラスごとに、
モニターと呼ばれる責任者が任命されており、
モニターが鍵を預かっていて開け締めを行う。

それ以外にも、クラスの生徒たちの集金も彼らモニターの仕事だ。

ちなみに彼らは、基本、イヴァナのスタジオの生徒だ。

こういった仕事を請け負うことで、
受講料を割引してもらうという恩恵を受け、
ウィン・ウィンの関係が築かれているのだ。