群像劇映画とは、
グランドホテル方式、アンサンブル・プレイとも呼ばれる映画や演劇などの表現形式のひとつ。映画「グランド・ホテル」が、その語源だと一般的には言われていますよね。
ホテルのような一つの大きな舞台装置に様々なバックグラウンドを持った人々が集まり、それぞれが複合的に関わりながらストーリーが展開されていくという表現方式です。
映画や演劇は人間関係を描くものですから、やはり群像劇ように多くのキャラクターが重層的に関わることで、より効果的に深掘りした人間描写ができるのがその特徴でしょう。
また調べてみると、その原型はフランスの小説家・バルザックの代表作「ゴリオ爺さん」(1834)の下宿屋に登場する『ヴォケール館の食堂』にもう既に見られる形式だそうです。
サマセット・モームが「世界の十大小説」の一つに挙げている小説だけに、一度は読んでおきたい一冊です。
ちなみに余談になりますが、サマセット・モームの「世界の十大小説」は、次のような作品。興味があれば、是非、読んでみてください。
作品名 | 著者 |
トム・ジョーンズ | フィールディング |
高慢と偏見(自負と偏見) | ジェイン・オースティン |
赤と黒 | スタンダール |
ゴリオ爺さん | バルザック |
デイヴィッド・コパフィールド | ディケンズ |
ボヴァリー夫人 | フロベール |
白鯨 | メルヴィル |
嵐が丘 | ブロンテ |
カラマーゾフの兄弟 | ドストエフスキー |
戦争と平和 | トルストイ |
群像劇映画のおすすめの一本「マグノリア」
群像劇映画には数多くの傑作がありますが、今回はイヴァナチャバック・ワークショップでも取り上げられた映画「マグノリア」(Magnolia)という映画をおすすめ作品としてご紹介したいと思います。
1999年に公開された「マグノリア」
監督は今や「映画界のPTA」と言えばこの人、ポール・トーマス・アンダーソンです。非常にフィルモグラフィは少ない「寡作の作家」ですが、世界の三大映画祭すべてで監督賞に輝いた素晴らしい映画監督です。
映画「マグノリア」はロサンゼルスを舞台に、一見なんの関係もない男女10人の24時間を描いた群像劇です。
第72回アカデミー賞3部門にノミネート。ベルリン映画祭では金熊賞(グランプリ)を受賞した傑作ですから、まだ、ご覧になったことがない方は、見ておいた方がいい本当におすすめの一本。
ただ3時間くらいある長編作品ですから、時間と気持ちの余裕がある時の視聴をおすすめします。
群像劇映画「マグノリア」の簡単なあらすじ
タイトル「マグノリア」は花の名前(和名:木蓮・モクレン)ですが、映画の舞台であるロサンゼルスのサンフェルナンド・バレーに実在するストリートの名前でもあります。

登場人物たちが随所にこの通りを行き交いすれ違うシーンは、まさに群像劇のキャラクターたちを結びつける人生交差点的なギミック。
物語の接着剤的な要素ですし、同じく何度も登場するTVのクイズ番組もまた、もうひとつ主要登場人物たちを結びつける重要な役割を担っています。
一見なんの関係もないと思われていたことが、最後には見事に意外な展開をこの群像劇が炙りだします。これが、群像劇映画の大きな醍醐味かも知れませんね。
ちなみに10人の主要登場人物は、
- 男性向け自己啓発セミナー主催/フランク・マッキー
- 長寿TVクイズ番組の司会者/ジミー・ゲイター
- ジミー・ゲイターの妻/ローズ・ゲーター
- ジミー・ゲイターのひとり娘/クローディア
- 天才クイズ少年/スタンリー・スペクター
- 元・天才クイズ少年/ドニー・スミス
- 元番組プロデューサーで末期ガン患者/アール・パートリッジ
- アールの後妻/リンダ・パートリッジ
- アールの付き添い看護士/フィル・パルマ
- ロス市警の警察官/ジム・カーリング
そして、これもこの映画のクライマックスで起こる、一度見たら忘れられない超ショッキングなシーンが最後に用意されています。
まだこの映画をご覧になっていない方もいると思いますのでネタバレは避けますが、英語ではファフロツキーズ(fafrotskies)、日本語では怪雨(かいう・あやしのあめ)と言われる、雨の代わりに「常識では考えられないもの」が大量に降りそそぐという、この映画最大の印象的なシーンには、きっとあなたも度肝を抜かれるはずです。
映画「マグノリア」スタッフ&キャスト
制作スタッフ
監督 | ポール・トーマス・アンダーソン |
脚本 | ポール・トーマス・アンダーソン |
製作 | ポール・トーマス・アンダーソン |
ジョアンナ・セラー | |
製作総指揮 | マイケル・デ・ルカ |
リン・ハリス | |
音楽 | ジョン・ブライオン |
撮影 | ロバート・エルスウィット |
編集 | ディラン・ティチェナー |
ナレーション | リッキー・ジェイ |
10人の主要キャスト
役名 | キャスト |
フランク・T・J・マッキー | トム・クルーズ |
ジミー・ゲイター | フィリップ・ベイカー・ホール |
クローディア・ウィルソン・ゲイター | メローラ・ウォルターズ |
スタンリー・スペクター | ジェレミー・ブラックマン |
ドニー・スミス | ウィリアム・H・メイシー |
アール・パートリッジ | ジェイソン・ロバーズ |
リンダ・パートリッジ | ジュリアン・ムーア |
フィル・パルマ | フィリップ・シーモア・ホフマン |
ジム・カーリング | ジョン・C・ライリー |
ローズ・ゲイター | メリンダ・ディロン |
群像劇「マグノリア」に隠されたメッセージとは?
さて、最後に本題になりますが、今、この記事を書いていて、この映画が1999年というまもなく21世紀を迎える直前に製作公開されたことから、監督ポール・トーマス・アンダーソンは、改めて映画「マグノリア」を通じて、世界中の人々に何らかのメッセージを届けたいと思って作ったんだろう、そう強く感じました。
というのも、この映画は、聖書やキリスト教の世界と深く深く関わっている映画だからです。
旧約聖書の「出エジプト記」の中の「モーゼの十災」というエピソードをモチーフに、82という数字が随所に隠されているのも、この映画作品のテーマを読み解くひとつの魅力になっているかも知れません。
謎解き要素のひとつである「82」という数字は、モーゼの「出エジプト記 8章2節」がモチーフになっていることは多くの映画ファンの考察や活発な議論を呼んでいますし、この映画を語る上で群像劇という形式をとったのも、多くの人たちをストーリーテラーにすることで、より普遍的な意味を感じて欲しかったからかもしれませんね。
ちなみに映画のエンディングに使われた曲は、エイミー・マンの「Save me」
監督は、彼女の歌にインスパイアされて作ったと言っているし、映画に込められたメッセージは、この短い言葉に集約されているのかも知れません。
もし群像劇映画の傑作をお探しなら、この映画「マグノリア」は、おすすめ必見の一本です。
人間の愚かさとまた一方のその存在の素晴らしさや崇高さ、そんな一見相反する人間の深い感情を群像劇という文脈を使って見事に炙りだした作品だと思います。